小牧先生

小牧研一郎先生インタビュー

1999/2/3 @東大駒場15号館507号室


小牧研一郎先生

1944年生まれ.理学博士(1974年).専門は放射線物理学. インタビュー時現在東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系教授.


インタビュアー:岡本吉央,田中佑人,鈴木雄治郎
テープリライト:岡本吉央
フォトグラファ:鈴木雄治郎

岡本:
基礎科全般のこともお伺いしたいんですが,まず,基礎二自体についてお伺いします. 小牧先生が基礎二・広域システムの担当でやってらっしゃって,かなり長いんですけれども,やり始めた経緯とかを教えて頂けませんか?
小牧:
経緯ね. 基礎二が出来たときは昔のいろんな教室があったわけで,そこから何人かずつで基礎二を作るということが行なわれたわけですね. それで,その当時,物理からは教授1人,助教授1人が加わることになっていて,一番最初の経緯は僕もちゃんとは知らないんだけれども,僕の先生だった藤本先生が入っていました. 藤本先生が定年になったあと,僕が代わりに入ったというのが経緯ですね(笑).
岡本:
物理教室では,教授一人助教授一人っていう担当を決めるときにはどのような基準で決めていたんですか?
小牧:
その辺はねぇ,最初の方は知りません.
岡本:
小牧先生が加わったときは.....
小牧:
僕が加わったのは,藤本先生が僕と同じことをやってた先生で,そういうのが成行きなんだけれども.
岡本:
では,その当時,藤本先生がいらっしゃったときには,藤本先生とどなたが........
小牧:
もう一人は誰だったのかなぁ. 一番最初は小出先生か誰かだったかと思うんですけどね. というか,もう少しぶっちゃけた話をすると,物理教室では基礎二ができるという話を一般の先生はほとんど知りませんでした. 新しい学科を作るというときには,どういう構成にするかとか,どのような理念の学科にするかということを検討する委員会のようなものがあったはずで,そこに物理からも代表は出ていたのかも知れません. が,その検討の経緯はあまり教室で話されたことはなかったように思います. そういうことはどっかでは,話されていたのかもしれないけど,我々は知らなかった,少なくとも.
岡本:
ということは,物理の公の会議とか,文書でこういうものがまわるということがなかったということですか?
小牧:
なかったように思います. で,そういうことがあって,出来た後も,最初に加わった方々はともかく,物理教室全体として基礎科学科第二に対して非常にいろんなことを協力的にやるというふうにはなっていなかったと思います. 物理教室の役割はジュニア教育だというのが皆の共通認識だったわけですから. ただ,そのうちの2名が基礎科学科第二に所属ということなんで,講義はオフィシャルには2年に1回は開講するというような約束で,その後加わった人達もそれはずっとやってたと思うんですけど. それ以上,深く関わっては,たぶんいないんじゃないか,と思います. ただ,学生さんの中には物理的なことに興味ある方が時々いらっしゃって,卒業研究なんかでは引き受けたりしてた. それから,修士の学生も1人来たこともあるし. 今は,物理からは僕と池上さんが加わってるわけだけれども,池上さんという方は割と最近物理で採用された助教授なわけで,彼を採用するときには基礎科学科第二,もしくは広域システムに分野として近い人,あるいは深くコミット出来る人を探そう,という意図があって,人選が行なわれたわけで,それ以前はあまり深くコミットしようと思っても出来ない,人の構成から言ってね. という点は多々あったと思うんですが. 少なくとも,今は,一人は完全に基礎二向きのつもりの人が居て,ちゃんとコミットしてるという格好になっていて,まぁ,もう一人は僕だけど,僕は相変わらず,普通の物理をやってますから,あんまり,いわゆる,ソフト・マクロ・システムっていうキーワードにぴったり合うようなことはやってないですね. どっちかというと,ミクロなことをやってることになるだろうし. 実験だからハードだし. で,まぁ,シミュレーションとかそういう類は仕事として随分必要なんだけれども,あくまでも実験が主体なんで,そういう意味では,ちょっと,完全にぴったりというわけにはいかない.
岡本:
実験系の先生が加わっているのは,藤本先生もそういう方.........
小牧:
藤本も実験なんだけど,最初からではないわけで,誰か加わってた人と入れ替わったはずです,途中で. 最初からではなかったと思います. こちらに加わるのに誰が一番ふさわしいかということについては,池上さんの場合は明らかにそのつもりで来て頂いた人なんでふさわしいんですが,それ以外の中で誰がベストかというのが,難しいのです. 理論でも,計算機物理的なものが主体であればかなりふさわしいだろうと思うんだけど,かといってその人がやりたがるかどうかっていうのもあるわけね. だから,それは最初に,基礎二が出来るときに,少なくとも,物理の一般の先生とは相談無しに出来ちゃったという印象があるので,喜んで協力しようという人はあまりいないのは無理もないと思うんですね. 僕が喜んで協力してるかどうかはまた別問題で,僕が加わっているのは,藤本先生のあとを引き継いだ形になっているのですが,藤本の時代には修士の学生が来たりもしていましたが,僕になってからは大学院生は基礎二からはまだ一人も来たことはないわけね. で,専ら理学系研究科からとってるわけで,それはやっぱり僕のやってる分野向きの教育は,結局は基礎二ではやってないわけですよね. そういう面では僕にとってデメリットなわけだけれど.
岡本:
物理教室の中の物理の先生が2名関わるということなんですけれども,ずーっと基礎二が出来てから担当する人がどんどん替わってますよねぇ? 例えば,山崎先生が一時期基礎二の方もやっていたりだとか,生物物理の先生が担当したりだとかっていうのがあるんですけれども........
小牧:
それは,たぶん,当時は物理の先生方は定年ラッシュで,入れ替わりが激しかったのでしょう. 前の人が定年になったあと,誰か2人が加わっているという状態を維持するとき,物理教室ではジュニア教育のことは真剣に考えていたけど,基礎二創設時代の人たちが去ったあとには基礎二の理念や加わることの意義は伝わっていなかったのだと思います. だんだん思い出しましたが,山崎先生は藤本先生と入れ替わりで物理教室に来られ,基礎二も引き継いだのですが,僕と彼のどちらがふさわしいかを相談して,交代したのです.
岡本:
基礎二にいらっしゃることによるデメリットというか不利な点ということで,先程,学生は基礎二からは来ないで,専ら理学系の方からとっていらっしゃるっていうことがございましたけれども,他にデメリットになっている点や逆にメリットになっている点というのはございますか?
小牧:
その他にはあんまり特に感じないけれども. 要するに,大学院重点化した後っていうのはどこでもみんな同じ事情だけれども,例えば,物理では,大部分が相関に入って,2人がシステムで,また2人が生命に入ってるわけね. そういう状態になってる. 化学だって3つに分かれてるわけだよね. それで,重点化っていうのは大学院が本務であると言うことになっているわけだけれども,ここでの本業っていうのは相変わらず1,2年生をしっかり教育することなわけだよね. で,それには化学とか物理とか,そういう単位でいろんなことを考えなきゃいけないわけで,今のように大学院が3つに分かれてたりすると,それ自体が全体のデメリットだと思うんだけれども. ただ,それは,それでもこういう方向にしようという決断を,どこかでみんなでしたからこうなったわけで,その中でデメリットをカバーするようにしていくしかないわけです.
田中:
それは物理の方での会議とかもあるんですか?
小牧:
そう. 部会がある.
田中:
そこではどんなことが最近では話されてるんですか?
小牧:
やはり人事が一番重要な問題ですね. 教官の人事っていうのは大学院に所属してるんだから専攻が行なうというのが本当なんだけれども,今,専攻は理系の場合3つの系に分かれてるわけでしょ? で,3つの系が人事を審議する場所なわけだけれども,実質的には部会がどういう人をとるかを決められるようになっている. そうしないと,1,2年の教育をちゃんとやってることができないだろう,というわけで,そういうシステムになってるわけね.
田中:
そうすると,人事に関連して,1,2年の教育をどうやって行きましょうかっていうことも話されていると.
小牧:
まぁ,そういうことが一番で,それ以外のことは系会議その他で済んでるはずですから,部会が存在している理由っていうのは1,2年生の教育がちゃんと行なわれるようにということです.
鈴木:
ジュニア教育が大切だっていう考えは,先生達みなさん同じ一致した意見になっているんでしょうか?
小牧:
物理は,少なくとも,そうですね.
田中:
物理学の部会の方で研究について我々はこうして行きましょうとかそういうことはあるんですか?
小牧:
物理は研究というのはほとんど個人が自分のテーマを自分で決めてやってるわけで,実験だけは教授・助教授と助手まで含めたグループ,2人ないし4人ぐらいのグループでやってるわけですね. 理論の方は助手まで含めて1人ずつがほとんど独立のテーマをもってやってるという形ですから,新しい人でどういう人をとるかというときにはどういうことをやりそうな人をとりたいとかね,そういうことで相談はするけども,一旦採ってしまったら,その人がどういう研究やるかはあまり人から指図はされないはず.
岡本:
物理部会・旧物理教室っていうのは,理論系の人と実験系の人という風に大きく分かれるわけですか?
小牧:
そうです.
岡本:
で,研究スタイルというのか組織構造というのか,も違っている,と.
小牧:
組織という意味では,実験では一般にグループで研究している. まぁ,研究室というのが教官一人じゃなくて複数の教官で運営されている,と. で,理論の方は1教官1研究室と言っているかはともかく,そういう感じでやってます. ただ,同じような分野の人が何人かいますから,その人達が協力していないというわけではもちろんないんだけど.
岡本:
小牧先生が基礎二にいることによるメリットっていうのはあるわけですか?
小牧:
そうねぇ(笑). 物理の研究という面では目立った物はないよね,そういう意味では. まぁ,駒場で教育と研究の場を与えてくれている,そういう意味ではそれが一番のメリットなわけだけれども.
岡本:
目立たないメリットっていうのはそういうような部分.....
小牧:
まぁ,そうね(笑).
田中:
後,授業は担当されてますけど,そこでの様子はどうですか? そういう私も一度出ただけで止めてしまったんですけれども.
小牧:
小牧先生 あまりよくわからないね. 今学期は最初の2回までは3,4人の学生がいたんだけども,それ以後1人も出て来なくなって,2回続けて1人も来ないから,学務委員長にもうやめるよって言ったら,もう1回だけ待ってみようと言うから,3週目も行ったけど,やっぱり1人も来なかったから,結局止めましたけれども. 今学期は特にひどいねぇ. それまではちゃんと最後まで聞くのが3,4人はいて,それで,僕は試験はせずにレポートの問題を講義の途中で出して,それを採点してたんだけれども,レポートだけはもう2,3通余計に来たりということはあったような気がするんだけれども(笑). で,どういう研究室に行くような人達が僕の講義を聞いてたかっていうことはちゃんと追跡調査してないからちゃんとわからないけれども. やってる講義自身も無理して僕の講義聞かなくても本読めばもちろん分かるようなことですから,そういう意味では,特に,そういう講義を聞いてないからどうのこうのっていうことにはならなくて,多分,自分で勉強して分かるはずのことです. まぁ,大学院クラスの講義だと割とそこで聞かないと他に学びようがないことを教えているようなこともあり得るけど,3,4年生までの物理系の講義というのは,多分,普遍的な講義のはずで,どこの学科に行ってもたぶんそこで聞かなくてもそのこと自身は学ぶことが十分できるような内容だろうと思うんです.
岡本:
そうすると,いわゆる教科書的な,ということですか?
小牧:
まぁ,そういうことになると思うんだけれども.
岡本:
という意味では,ある程度基礎的なっていう部分なんですか? 物理の中では......
小牧:
うん. まぁ,一応ジュニアの物理は知っているという前提で. それで,古典力学の方では解析力学とか,それから,量子力学と相対性理論の初歩的な所を,本来,これは1つずつが1学期ずつかけるくらいやっても中身があるようなところを,少なくとも,どういう風に考えるのかとか,どういうものだというのを伝えようというのを,まとめて1学期でやっていました. 基礎二は文系から来る人もたまにいて,そういう人も受けていましたし. 他にいきなり非線形の物理のような講義があったりもするよね? で,いきなりそういうのを聞くにはたぶんギャップがあるだろうから,線形の古典的な内容も必要だろうということもあって,そのような講義をやったわけですけれども.
岡本:
そういうのはカリキュラムの中での小牧先生が受け持ってらっしゃる講義の位置付けみたいな........
小牧:
そういう内容にすべきかどうかというのは,たぶん,基礎科学科第二全体でこの講義でこういうことをやらなくちゃいけないっていうのをコアになる科目以外はそんなにrigidに決めてはいないみたいなんですね. 僕のもらった講義の名前は,自然システムIVですが,他に何があるかを見て,この辺が抜けてるだろうと思って,そういうことをやったわけです. 本当は,この講義を聞くに当たってはこの講義が必要だから,という組み立て方で全部が考えられてる方がいいだろうと思うんだけれども,その辺の判断は僕に関しては僕が自分でやったわけです.
田中:
それじゃあ,大学院の方の授業は担当されているんですか?
小牧:
大学院の授業の名前は自然システムIIと言うんですね. 今のところそっちも隔年なので,合わせて一つでやってました.
田中:
合併講義ですか?
小牧:
はい. 「両面開き」と称する形でやってます.
田中:
そうすると,基礎二の授業でもあるし,広域システムの授業でもあると. だから,3,4年生と院生が.......
小牧:
それで,多いときは7,8人ぐらいかな,聴衆は.
岡本:
別にここで聞かなくても読めば分かるような内容とさっきおっしゃいましたけども,もしそうだったら,小牧先生も教科書を書くようなことにはならないと思うんですけども,物理を教えるとかいう面で困難な面っていうのはどこなんですか?
小牧:
困難な点....... 基礎二とは限らず? まぁ,ジュニアのことで言うとね,とにかく,昔の学生に比べてやっぱり「考える」ということの訓練が出来てないのではないかと思われますね. 要するに,暗記することは得意みたいだけれども,考えて,物事を道筋立てていくことがほとんど出来ないらしくて. 物理というのは森羅万象をより少ない原理から説明しようというような立場なわけですね. だから,覚えることはほんのわずかで,後は考えればすべて説明できるはずだっていう立場の学問なわけ. そういうことを教育しようと思うと,枝葉末節の,ある場合のこととかいうのを片っ端から覚えようとするわけですね,学生さんは. だから,パンクするんで,ちょっとシチュエーションを変えるともう考えられない,という感じのが多いわけで. で,それは大学来てから考える訓練始めるんじゃ,多分もう遅いんですよね. やっぱりそういうことはもうちょっと若い頃からものごとを考えて解決するように進めるという訓練が必要だと思います. 今は,行動パターンというか思考パターンというか,そういう姿勢がともかくなくなってまして,どれに当てはまるかだけを探して,その当てはまるのがなければわからない,で,おしまい,と. そういう感じの学生が非常に目立つんですね.
田中:
今,先生がおっしゃった,きちんと思考するとか考えるとかいうのと,例えば,大学入試とかで物理とか数学の問題を解けるというのは違いますよね?
小牧:
えーっとねぇ,物理はなるべく考えるような問題を出しているつもりですけれども. ただ,教科書にないことを出すと滅茶苦茶にいろいろ批判されますよね? そんなことは気にせず,思考力を問うことをやるべきなんだけど,どっかで自己規制してそういう問題を止めるから,本当に考える問題にならない面があるんだけど.
岡本:
そうすると,高校の物理というのか,高校でやってる理科っていうのは,どちらかというと,考える訓練にはあんまりなっていなくて,どちらかというと,覚えるような,暗記をするような形のものになってるんじゃないか,という.......
小牧:
高校の物理がそうなってるかどうかっていうのはちょっと別で,高校の物理もかなり考え方みたいなものをやってるようには見えるんだけどね,少なくとも教科書を見るとね. で,内容がちょっと多すぎるかもしれないのは確かですが,それよりは,そういう科目をもう取ってないでしょ,ほとんどの学生が. 高校で物理取ってるのが十何%ですよ. 2割を切ってるはずです.
田中:
高校生全体でですか?
小牧:
そう. で,物理専門の先生がいる高校もどんどん減ってるはずで,だから,そういう科目をもう習う機会がなくなりつつあるわけね. だから,これから先は,考えない人たちだけが高校を出て来ることにおそらくなるわけだ.
岡本:
東大の入試でも物理を選択する人っていうのは少なくなっていますか?
小牧:
理Iに関してはほとんど全員が取ってると思われますね. 若干取ってないのもいるんだけど. で,理II・IIIではどんどんとってない方向になっていて. で,ジュニアのカリキュラムを変えたときに,物理はBコースというのを始めたわけだけれども,それをやらないと,とにかく,大幅に不可がでるわけです. 大幅にっていうのは,2割とかそのくらいの不可がつくわけで. そのかなりの部分は,聞いてみると,高校で全然取ってなかったっていうのです. それはまぁ,無理もないわけで,取ってないとついてけない可能性が十分ある,という意味で取ってなかった人達用のコースを作らざるを得ないだろう,ということで始めたんですよね. 今は入試で物理を選択しなかったものがBコースを取ることができる,という風なシステムになっています.
岡本:
小牧先生は高校の物理の教科書を書いてらっしゃいますよねぇ?
小牧:
はい.
岡本:
そういうときには,考える訓練みたいな,少ない原理から解き起こすみたいなような部分っていうのを重視するようにしてらっしゃるんですか?
小牧:
そのつもりです,なるべくね. ただ,やらなきゃいけないことが決まっているから,あんまりそこを独創的にはなかなかやってられない. とにかく,ページ数が限られてて,盛り込むべき内容というのはある程度決まっているから,その入れ方で工夫するしかないわけです. 例えば,いきなり式を天下りでボンと出すのではなくて,何か,実験的なことをやって見てその結果こういうことらしいという風にもっていくとか,そういうようにいろんな工夫をするわけです.
岡本:
小牧先生は物理学科の出身ではないのですよねぇ?
小牧:
僕は基礎科学科の出身. 基礎科学科の1期生です.
岡本:
どうして基礎科学科に進学されたんですか?
小牧:
その頃はねぇ,物理も化学も数学も面白そうだったんですよね. で,高校のときは,物理・化学よりは数学の方が得意のつもりでいるわけだ. そういう人は今でも結構多いと思いますが,大学入って来るといきなり何か良く分からない数学が出て来て,何だ,こりゃ,と思うわけだ(笑). それで,まぁ,自然科学がもともと好きだったわけで,物理やろうか化学やろうか,何やろうかと,言ってるうちに進振りの時期になって,今度新しい学科が出来て,全部やれそうなのが出来た,と. で,そこにしようと言って,基礎科学科を選んだわけです.
田中:
理系の学生の中で,そういう何でもやれる学科が出来るらしいというような話しはどれくらいの影響を持ってたんですか?
小牧:
その頃はまだ,高度成長のちょっと前ぐらいだったのね. 池田首相になったのは,基礎科に来てから後のはずだから,その直前ぐらいで,あの頃はまだいろんな学科がどんどん出来てたわけ. 例えば,工学部の都市工とかね,それから,原子力とか,ああいうのが出来てまだ間がないわけ. だから,新しい学科が出来るっていうのは割と普通のことだったわけね. で,今度出来るのはどういうものだっていうような感じで.
岡本:
基礎科に進学する前のそういう印象と実際に進学した後の現実というか印象っていうのは違っていたんですか? それとも,期待通りだったんですか?
小牧:
まぁ,期待通りだったと言った方がいいかな? で,基礎科学科の最初の頃の姿っていうのはもちろん元々物理・化学・生物・数学の先生方の集まりなんだけれども,やっぱり新学科のカリキュラムをどうするかという辺りは予め考えてあるような構成にはなっていて,僕は最終的には物理やるわけだけども,生物とか生化学とかの講義は随分たくさん聞いたし,それ以後そういう分野も随分進歩したけれども,相変わらず興味持ち続けられるというのは,その頃下地が割とよくできてたせいだと思ってます.
田中:
で,そのようにして入られた基礎科学科の他の学生とかはどんなことに興味を持っていたんですか?
小牧:
やっぱり,基礎科学科がなければいろんなところに行ってただろうと思う奴が来るわけだよね. で,生命科学系やら,物理やら,化学やら,数学やら,天文やらとか,そういうところへ行って十分活躍しそうな奴らがいたわけで. しかも,新しいところへ来ようって言うんだから,割と積極的な奴が多いわけで. まぁ,随分活発にいろんなことをやったね. 教官の評価をやったりとか(笑).
田中:
学生による教官評価ですか?
小牧:
そう.
岡本:
具体的にはどのようにやったんですか?
小牧:
どのようにってあんまり覚えてないけど. まぁ,講義の内容とかやり方とかその辺について.
岡本:
はじめ,1期生で進学されたのは何人だったんですか?
小牧:
定員が50のはずで,50人きっちりだったと思います. そのうちたしか1人が理学部に途中で転学科したのかな? 実は去年名簿を整理して同期会をやったのですが,27人集まったか. やたら今,大学やら研究職に就いてるのが多い.
岡本:
基礎科っていうのは,はじめ構想されたというか,小牧先生が1期生で来ようと思ったようなパンフレットとか宣伝っていうのはどのような形だったんですか?
小牧:
パンフレットなんてないよ. たぶん当時そんなことはやるようなことじゃなかったんで. 何でどのくらい知ったのかはちょっと今更覚えてないけど,学部報とかそういう程度の情報しかたぶんなかったんじゃないかなぁ. 本当はクチコミぐらいで,学生の間の. で,そもそももうとりこわしちゃったけど,4号館はまだなかったんだよね. 進学した直後は. 昔の2号館というのがあって,そこのどこかちっちゃい所で講義だけやってて,途中で4号館が半分だけ出来て,そこにいる間に残りが出来てとか,そのくらいのペースで,建物が予定より遅れてるといっちゃあ,学部長室に学生が交渉に行ったりした覚えがあるんだけど. ちゃんとやってくれ,と.
田中:
小牧先生は1期生でいらっしゃるので,いろいろまだ学科としての不備な点とかがあったかなぁ,と僕は思うんですけれども,そういうものはありましたか?
小牧:
たぶん,ものなんかは不揃いだったよね. だけど,学生実験みたいなのは何とかちゃんと全部やらしてもらえたから. あの辺は担当側ががんばってやってくれたんだろうなぁ. あと,最初だからねぇ,すべての講座の人事が終わってなくて,僕がいる間にもポツポツと先生の方がうまってくるというようなこともあったよね. で,講義も中の人達だけじゃなくて,外から非常勤で来て頂いて,急場を凌いでるらしいのもあったけれども.
岡本:
基礎科をずーっと見て来て,基礎科の中にいらっしゃって,そこから就職されてとかあって,その基礎科の移り変わりとか,基礎一になったりとかいうのもありますけれども,そういうところで感じる部分っていうのは........
小牧:
やっぱり,新しい学科が出来るっていうと,暫くは,少なくとも学生の関心が高いから,言ってみると,質のいい学生がずっと来てるわけです. ところがそのうち,他にもいろんなものも出来たりっていうこともあるだろうし,段々マンネリになるっていうこともあるかもしれないし,基礎科学科もある時期から先はだいぶ学生の質という言い方をしちゃいけないのかもしれないけれど,意欲と言ってもいいんだろうけども,その辺は随分低下していったのは,まぁ,明らかといっていいんじゃないかなぁ. で,基礎科学科第二も出来てからずっといい学生が来てはいるわけだけれども,数年前から,段々意欲の低下の兆しみたいなものが見えて来てるような気がするんだけれどね. 最初の頃は,とにかく,優秀な学生ばかり来ているという印象はあった. で,しばらくすると,普通の学生が混じるようになったな(笑)っていう印象を持つように段々なってきた.
田中:
優秀な学生,というのはどこを見られて,あぁ,優秀だなぁ,という風に思うのでしょう?
小牧:
それはねぇ,ちょっと言い表しにくいけど. 基礎二の個々の学生とは僕はあまりコンタクトがないからね,研究室で日頃見てると,っていう見方が出来てないからあれなんだけど. 数少ないコンタクトでいうと,まぁ,初めの頃の学生は大体は,ものが揃ってないというようなところもあって........
田中:
それは基礎二........
小牧:
基礎二も基礎一も,いや,かつての基礎科の方も. たぶん,学生さん達の方で何かやらないと,まともな教育が受けられないんじゃないかっていう危機感的なことがたぶんあるんじゃないかと思うんだけど. 非常に教官にいろいろ注文を出したり,そういうことが多いわけね. で,そうするからには,学生の方もそれなりの準備があるわけです. そういうのを,先輩がやってるのを見ていると,結構影響が後輩に及ぶんだと思うんですけど. そういう感じの教官とのやりとりっていうのが暫くすると薄れてく感じがあって,押し着せの,くれるもんだけくれればいいですっていうような感じの学生に段々見えて来るわけ. 最初は,あれもほしい,これもほしい,と口開けて飢えてます,という学生であるのが,段々,飽和して,もう何でもいいやって言ってるような学生に見えて来るわけですね. そういう印象を言うと,さっき言ったような言い方になったわけです. やっぱり,何か,積極性が薄れた,と. 一言で言うとそんな感じなのかなぁ? で,まぁ,学生を捕まえて細かいことを問い質すとちゃんと物事をよくわかってるかどうか,というのはもう一つ別の話かもしれないんだけども.
田中:
そういうのは,基礎一も基礎二も,最初の頃はそういうのが共通に見られてるんですけれども,強いて何か違いがあるとすれば............. 基礎二の出来た頃は先生は所属としては基礎二では........
小牧:
なかった.
田中:
その頃はどこにいらっしゃったんですか?
小牧:
その頃はただ,物理教室にいたわけですね.
田中:
後,基礎一の授業とかは.......
小牧:
基礎一は一切やってない,教育のほうは.
田中:
ジュニアの物理ですか.......
小牧:
はい.
田中:
ちょっと遠いからわからないかもしれないんですが,何か強いて違いは........
小牧:
っていうか,例えば,藤本がやってた頃には大学院生が来てたりしたので,例えば,その人間は随分積極的なやつだったということがあるし. それから,僕が基礎二にコミットするようになって学科会議や何かで学生の卒業の話などをずっと聞いてるのを,卒業できそうもない,単位が足りないとかね. そういう件数の増え方とか,そういうのを見てるとそれは明らかだと思うよ(笑). 卒業研究の発表も全部ちゃんと聞いてるわけではないんだけれども,やってる中身のちゃんとしてるか度,っていうのも変だけど,よくこういうことまでやったなぁって関心する度合っていうのが減って来たとかね(笑).
田中:
というような,そういう風になってきてしまった過程は似てるということですか?
小牧:
そうです. それがどういう法則のもとに,いつでもそうなるのかはわかりませんが,何かどこでもそういうことはあるような感じは受けるね. 何か,いろんな学科が出来て20年とか30年の間に何が起こるかということを見てると. 例えば,工学部みたいなところは,言ってみると,産業界の要請っていうのはかなりあって,そこに人材を供給するっていうのが重要な役目だろうから,社会が変わっていったら,それに応じて学科もどんどん変わって変遷していって,陳腐化しないように,また新しい学科に衣更えするっていうようなことが割と起こってるかもしれないんですね. それで,理学的なところね. そういうところは,学問がそんな短時間でころころと変わらないよね? で,そういうところっていうのは,暫くすると,目新しさがなくなると,それにともなって失うものが何かあるような気がするんだけど. それは防ぐ方法もあるのかもしれないけど(笑).
岡本:
基礎一で御自身が受けて来た教育っていうのが今の研究活動や生活で役立っている部分というと言い方がまずいかもしれませんけど,そういう部分っていうものには何がありますか?
小牧:
小牧先生のインタビュー風景 研究にはたぶん直接には役立たないです. 例えば,基礎科学科っていうのは,いわゆる,解析力学というのは教えないうちに量子力学を教えるようなところで,身につかないっていう意味ではないんだけれども,それは他に生物とかそういうものも教えなくちゃいけないから,物理学科でやるように物理は全部教えてもらえないわけね. で,その代わり,余計なことを知る機会があるわけで. だから,その先,どうせ「基礎科学」という学問の専門家にはなれないわけで. そん中のどっか小さい部分の専門家にいずれなるわけですねぇ. 科学史とか科学評論的なことをやろうとする場合はその全部をある程度把握するのがいいかもしれないけども,そうではなく,自然科学の何か最先端のことをやろうとしたら,どっかに特化せざるを得ないわけだからね. その為には,3,4年生で受けた教育っていうのはほとんど0なわけ. ただ,0でないのは,そういうときに,ものの考え方をどうするかとかね. それから,やっていて何かわからないことをやろうとするときに,どういう本を勉強すればいいかというとっかかりとか,そういうものをたくさん与えてくれていたということだと思うんだけどね.

で,そういう意味では,僕は今物理やってるけど,基礎科学科で習った物理は1,2年生でやった物理の先の量子力学っていうのはどういうものかっていうのを教えてくれた程度で,本当に使う量子力学は自分で改めてやるしかないわけで. ただ,そのときの勉強の仕方はそこで訓練されてる,と. そういう感じのもんなんです. で,後,例えば,生物とか生化学とか,有機化学やら無機化学やらで習ったことというのは,例えば,物理で実験やると,実際にはいろんなものを扱うわけで,そのときにそのものが化学的にどういう性質があるかとか,そんなことを考えるときの手がかりには役に立つわけね. でも,それもどうせ特殊なものの細かいことが実際には必要なわけで,講義で習うのは一般論に近いわけですから,そのとき習ったこと自身が役に立つんじゃなくて,そこで習った一般論から必要な特殊なケースをどう調べたらいいかとかそういうときの手法みたいなものがそこで役に立つとかそんな話にどうせなるわけだよね. で,その辺の講義を全く聞いていないと,例えば,分からない物が出て来たときにそれを自分で調べてみようと思うような気が起こらないとかね. そういうことに多分なるんだと思うんだけど. 多少でも何か下地があると,そっちも少し突っついてみようという気が起こるわけで,それは随分違うと思いますね. まぁ,あと,生命科学とかその辺はその後大発展してるわけで,いろんな,普通新聞やテレビでやるような内容も多分理解度が随分違うわけだよね. 生命科学の基礎的な講義を聞いてるかどうかで,まぁ,理解度が違うっていうよりは,興味をもってそういうのを見るかどうかも随分違うわけで. 言ってみりゃ,それは僕にとっては趣味みたいなことに今だとなることになるわけだけれども,その辺には随分バックグラウンドとして役に立っていると思う.

岡本:
そうすると,逆に言うと,今,小牧先生が基礎二でやってらっしゃるような講義っていうのは,講義をしている対象の学生について,その人の研究にはあんまり結び付かないかもしれないけれども,ある種の動機みたいになるような講義,ということですか?
小牧:
まぁ,例えば,天体のことをやろうとすると,一般相対論が必要なわけだよね,きっと. で,そのときに,いきなり一般相対論を勉強しても,多分,意欲があれば充分分かるはずなんだけれども,特殊相対論と一般相対論というステップがあってもいいわけだし,いろいろ非線形のダイナミクス的なことをその先やろうというときに,線形がどういうものかということをある程度見ておいて,それとの違いでものごとを考えるというような為に役に立つんじゃないのかなっていうつもりでやってるという感じかな? で,見方を変えると,世の中のことは実はほとんど非線形ですからね,いきなり非線形のことだけ扱っていろんなことをやる,という道筋はもちろんあっていいんだけれども,そのときに,それが非線形特有のことなのかどうなのか,そういうのを考えるときにたぶん線形とどこが違うという比較がどこかで必要になると思うんだけど. だから,線形の物理みたいなもののサワリを一通りやっといていいんじゃないかっていうのが,まぁ,一番の動機かな?
岡本:
基礎二や基礎一もそうなんですけど,学際性っていうのを唱っていますよねぇ?
小牧:
ええ.
岡本:
小牧先生が今やってらっしゃるような研究の実験的な物理や素粒子を扱うっていう研究は学際的な研究なんですか?
小牧:
学際って言うのは,どういう範囲で言うか,なんですけれども. 僕がやってるのは,素粒子と大袈裟に言わないけれども,まぁ,昔だと核物理の実験と言われたような部分と物性の実験. ものの性質とか,結晶とかを相手にするようなやつね. それの学際的な分野だと言うようなことは言えるんだけど. 核物性ということばがあって,核物理的な手法で物性を調べるというような概念なんだけれどもね. そういうのを学際と言うこともあります. しかし,実験物理だから,全部,実験物理と言えば一括りで入りますけれども.
岡本:
その核物性というようなものは歴史がどのくらいなんですか?
小牧:
そうですねぇ,現代物理の出初めというのが,およそ100年前ですよね? その頃は,実は,全てが核物性といっても良いような状況で,僕は自分の分野を呼ぶとき,放射線物理という言い方をよくするんだけど. 100年前の物理っていうのは,ほとんどすべて,放射線物理だったわけ. 要するに,電子が発見されたり,原子に原子核があるとか,原子模型とか,そういうのをやり出した最初っていうのが,真空の中で放電させるといろんなことが起こるわけね. で,その辺でいろんなものが発見されて来たわけで,物質の構造やら何やらの性質が分かって来ると,半導体の電気的な性質とか,そういう風にどんどん応用に結び付いた物性物理学っていうのがどんどん進んだわけだけれどもね. 原子核物理っていうのは今度はどんどん原子の中の細かいことになって,素粒子物理になって,で,場合によっては宇宙物理ともくっついたりするわけね. という風にどんどんどんどん広がっていってるわけだけれども,僕自身がやってるのは,物質の相互作用をいろいろな状況で調べたいというのが中心なので,言ってみると,100年前の手法にかなり近いんですよね. 技術や動向はどんどん変わってるけれども. 何かと何かをぶつけて何が起こるかを見てやるという. それは最先端の素粒子の加速器でもそれをやってるわけだけれども.
岡本:
100年ぐらいの歴史があるんだけれども,まだ分かってないことがたくさんあるというような分野なんですか?
小牧:
かなりのことは分かったと思っているから,あんまり今,物理は(笑),期待されてないんだと思う.
鈴木:
理論系と実験系に分かれるとおっしゃいましたけど,理論系っていうのは計算機を使うシミュレーションの科学とも違うんですか?
小牧:
とは全然違うと言ったほうがいいんだと思う. シミュレーションっていうのはどっちかというと実験なわけだよね,言ってみりゃ. 一種のシミュレーションを主体にしている人というのはそう多くないと思います. 池上研はシミュレーションが主なのかもしれんが,計算機自身はみんな随分使うわけね. 数値計算は必要. それとシミュレーションとは別の話でしょう.
田中:
今,紙と鉛筆だけでできる物理というものはないんですか?
小牧:
できる,というのが何を指すかだけれども. それで新しいと人が言ってくれるようなものはなかなかないんじゃない? 飛びきり新しきゃ紙と鉛筆で多分出来るけれども,それが本当である可能性がどのくらいあるかしらんが,それが本当だと思ってもらえる程新しいことがそう簡単には出て来ないだろうから.
田中:
今,例えば,新発見の糸口を見つけるのにも,計算機は使われてるっていうそれくらいですか?
小牧:
新発見の糸口っていうのがねぇ........ それはシミュレーションではあまり起こらないでしょう. シミュレートできることは何が起こるかが分かってるからシミュレートできるんであって,それのいろんなものの組合せで見落としていた組合せが起こったから新しいっていう可能性はあるけれども,新発見と言う程のものはたぶんなかなかないね. あくまでも新発見があるとしたら,何か実験をやったら今までのことで予測できない変なことが起こった,説明のつかないことが起こった,それが間違いの測定でなくて本当に起こっていたことならば新発見なわけね. で,まぁ,理論的な新発見っていうのはあり得るんだけど,それは多分もっと概念的な方が先で,それが正しいかどうかはシミュレーションをやってみて,っていうことはあると思うんだけど. だから,シミュレーションの元になるのに,いろいろ仮説を放り込んでシミュレーションをやって,その結果発見されることはあるかもしれないけど,それは仮説を先に考えた方を評価すべきなわけだよね.
岡本:
その,実験物理と理論物理というのは,理論による予言が実験によって確認されるっていう部分と,実験によって新しく発見された現象を捉えるための理論っていう風な,何か学問が進んでいく流れみたいなものが多分2つあるんだと思うんですけど,そういう認識で大体いいんでしょうか?
小牧:
それはそうでしょう. ニュートンの頃もそうだったでしょうし. アインシュタインのときも,アインシュタインが何もなしであれだけのことは出来なかったわけで. 例えば,マイケルソン=モーリーの実験というのがあって,光の速度はどうやったって変わらないという実験があったから相対論が出来たんだね. そういう感じで,やっぱり,そんな具合に進んでいくんじゃないの?
岡本:
小牧先生は実験の計画とかはどうやって立てるんですか? という風に素朴に思うのはなぜかと言うとですねぇ,放射線を使うというと,すごく装置が大がかりになって,使うときの使用料とかがばかにならないと思うんですよ. だから,そんな頻繁にやるというわけには行かないと思うので,ある程度の計画とかっていうのを綿密に立ててやられると思うんですけども. そのときに,僕のイメージでは,まず,シミュレーションしてみてこうなりそうだから,それを実際に実験でやってみようとかっていうふうなイメージがあるんですけれども.
小牧:
そういうケースもあるんだけど. 例えば,僕は今,加速器を使う実験を主には3ヶ所くらいでやっているのだけど. 例えば,再来週にも,千葉にある放射線医学総合研究所の加速器を使うのだけどね. その加速器自体はガン治療用の加速器なので,昼間は医者が患者を照射するのに使ってるわけ. で,夜とか週末が他の実験に使えるようになっていて,どの日を使えるがというのはみんなで取り合いになってるわけね. だから,こういう実験をやりますので何日ぐらい使いたいと計画書をいろんな人が出して,それを,これはやると意義があるから,これにたくさんmachine timeを与えようなどということを決める委員会があるわけですね,そういうところには. そこで割り振りをやるわけで,それは実際に装置を使うための手続きで,実際に我々が実験やるときには限られた時間しかもらえないから,そこで失敗しないようにちゃんと結果を出すにはどうしたらいいか,よく考えてやるわけね. こういうことをやると面白い結果が出ると予想されるからやりたいという風にして時間を要求するわけだから,ほとんど何が起こるかは8割方わかってるつもりのことをやることになります. こうやると何が起こるかわからないのでやらしてくださいと言われても,はい,やってください,とは向こうも言わないわけだよ. 普通はね. で,こういう面白いことと,もうちょっと,こういうわからないことが起こるかもしれないということでやるわけです. 全部わかっちゃってたらやる必要はないわけですね. で,こうなると思うけど,これを確かめたい,とかね. そういうことだから,大体計画もそれに沿って立てられるわけで,どこをどういう風にしたらいいかっていうことに関しては,シミュレーションできることはやってみたりもするわけ. この話しは割と短期的で,半年ぐらいに1回ずつぐらいとか,もうちょっと頻繁にそういう機会があります.

もう一つ,今,僕が代表者になって,反陽子を使うプロジェクトをやってるんだけど. 科研費の1種ですけれども,5年間で10億ぐらいの予算を要求している. これは非常に大掛かりなプロジェクトなわけで. 反陽子というのは水素の原子核の反粒子ね,antiproton. それは前から,ものを高エネルギーで衝突させるとそういう粒子ができるとかそういうことはわかってるし,それを使っていろんな研究がだいぶされてるんだけども. 今度は,それを使って,衝突実験をやるわけですけれども,非常に遅い衝突をやらせようとしているのです. ふつう,反粒子を作ろうと思ったら,物質と物質を高エネルギーでぶつけると,はずみで反物質もできるわけね,反粒子が. で,それは一般にものすごいエネルギーで走っているわけね. で,それが更に何か起こしたとしてもあっと言う間に通り過ぎるようなときにしか見えないわけです. そうじゃなくて,できた反陽子を減速して,遅くしてね,最終的にはトラップする. 要するに,実験室の中に止めておく. それには電場やら磁場を使って止めるんですけれども,真空の中で. それに,例えば,陽電子っていうのがあるね,電子の反粒子. それをくっつけると反水素ができるわけ. というようなことをやって,水素と反水素は電荷が逆さまであるという以外はたぶんおんなじだと普通の理論では信じられているんだけども,それが本当かどうかを確かめようとかいうのを割りと遠いほうの目的に置いて,近いほうの目的としては,反陽子と原子を衝突させたときに何が起こるかとかね. その加速器自身は日本にはなくて,ジュネーブのCERNという研究所に大加速器群があるんですけど,そこで出来た反粒子を減速して溜めておくという計画で,今年の秋ぐらいから実際に現地の実験も始まるんだけれども,そういうことをやろうとすると,今度は,ものすごい金額の予算要求をしないといけないわけで. そういう研究プログラムを作るときには,数十人という規模の人間が協力しないと結局できないわけだよね. それで,研究計画を作って,それで,計画自身をまずapproveしてもらって,予算的な裏付けをとる,ということが最初のステップになるわけね.

岡本:
いくら物理の実験の研究室だからといって,理論を全然いじくらないわけではもちろんないんですよね?
小牧:
うん. 例えば,反陽子使って実験やるんだけれども. 例えばね,反陽子はマイナス電荷だから,ふつうは原子核のそばに行くと原子核にぶつかって,原子核の陽子と反陽子とがぶつかって消えてしまうわけだよね. 物質と反物質で消える話は知ってるよね? 消えたときにそのエネルギーがどっかいかなくちゃいけなくなるから,又,粒子がワァーっといっぱい出来るわけだけれども. ところが,うまくやると反陽子が原子核のまわりをくるくるまわって消えないかもしれないわけね. 実際になかなか消えないやつも見つかっていて,そういうのも調べたいわけです. そうすると,そういう状態は今までない力学系になるわけです. 寿命が短いかも知れないけど. そういうものがどういう性質かとかいうことは理論屋さんがかなり本気で考えないと答えが出ないわけで. で,実験で何かを測ろうと思っても,どの辺を狙って測ったらいいかとかね. そういうのは理論屋さんの助けが随分必要なわけで,しかも実験である程度わかったから理論でその先をやるというのを交互にやりながら,実験精度がよくなってくる,と. 理論がよくなってくる,と. そういうことをやってるわけで,プロジェクトの予算の大部分はものを作ったり,道具を買ったりしなきゃいけないのだけれども,理論屋さんにも随分協力していただかないといけないような種類のプロジェクトになるわけ.
岡本:
基礎二や広域システムの,小牧先生が出していらっしゃる卒論題目とか修論題目の中では,どちらかというと実験ではなくてシミュレーションの方を........
小牧:
シミュレーションの方を主体に書いているのは,たぶん実験向きの人よりは,そっち向きの人が多いだろうと思うからそれを強調して書いてあるのです.
岡本:
そういう配慮と言うか,基礎二向きの,基礎二の人にも興味があるんじゃないかっていう........
小牧:
基礎二向きの側面だけを書いてあるという感じだね. もちろん実験に興味があれば大いに参加してほしいんで,そういう風に書いたテーマもあります. 卒研の段階ではあんまり遠くに行ってなんかやるっていうわけには行かないだろうと思って実験はあんまり主体にしてないんだけど,修士のテーマだったらスイスに行って実験やるっていうテーマでもいいはずですね(笑).
岡本:
そうすると,研究室の中に,シミュレーションをやる学生さんや,実験をやる学生さんっていうのは,分かれてるんですか?
小牧:
僕の研究室というのは,僕一人じゃなくて,山崎教授と2人でやっているんだよね. 彼は相関系の方なんだけど,うちにいる大学院生は,年によって多かったり少なかったりするけど,一応全員実験をやります. 今いる学生は少なくとも.
田中:
物理学科の学生ですか?
小牧:
いろいろですよ. 物理専攻もそうだし,相関系もいます. 研究の中身も大規模な加速器でやる実験をテーマにしてるのから,15号館の地下の実験室で出来るような実験をテーマにしてるのもいるし. それから,山崎先生は理化学研究所の主任研究員を兼ねてるので,そちらの方の装置を使って実験をやるのもいます. で,程度の差はあるけれども,それぞれの実験やると,ある程度それに関連したシミュレーションをやってみたいことが多いわけで,かなり入れ込んでやってる人とほどほどにやってる人といますね. そういう意味じゃ,シミュレーションの大家みたいな人がそれだけやってても,それはそれでいいな,と思うから,そういうテーマも出しているわけで. それは,実験に向いてない人に無理に実験やってもらうと,ものがこわれたり,怪我をしたりすることもあるし,向き不向きっていうのは当然あるから.
岡本:
今,研究室は小牧先生と山崎先生の共同の研究室ということなんですけど,広域システムの中で何か共同研究だとかっていう風なことっていうのは全然ありませんか?
小牧:
システムの他の人とね. それは今のところはないんですよね. でも,相手の人と相談したわけじゃないけれども,ひょっとしたら話してみたらうまく行く話があるかもしれないという芽がないではないけれども. 例えば,我々がやろうとしているシミュレーションを大がかりにやると,専用計算機を使った方がいいだろうとかね,そういうようなことがあったときには情報系の人達と連携したくなるかもしれないし. それから,我々使ってる放射線の検出器は,実は,宇宙でも結構似たようなもの使われてるわけ. 衛星に載っける検出器を開発されてる人もおられるわけで,そういうところと共同研究の可能性もないではないがと思っていますが,具体的にそういう話はしたことはないけどね. そういう意味で,全く縁がないわけじゃないけれども,今まで,特にコンタクトはしていない. それはだけどね,物理部会の中だって,我々のやってることは,物理の中では狭い部分なわけで,それに関して隣の人とすぐ共同できるかっていうとそういうことではなくて. ただ,やってることをお互い少し話せば中身はわかるという関係です. そういう意味で部会がとなりの研究室が何やってるのかを知るような場にはもちろんなるんだけど. そういう意味じゃ,広域システムで他の研究室で具体的に何をやってるかはあまりわかってないので,時々やっているシステムのセミナーはもっとやる必要があるとは思いますね.
岡本:
卒論の題目に小牧先生が,放射線を使って環境の中にある物質の動態をっていうのも出していらっしゃいましたけど,ああいうのも基礎二の人はこういうようなのは興味があるんじゃないかっていうようなことなんでしょうか?
小牧:
あれは具体的に以前うちへ来ていた大学院生がやってたテーマの一つです. 前に,4号館の地下に工作工場があったよね? 今,16号館の地下に来ちゃったけど. そこでは金属を切り刻んだりしてるわけですが,金属の微粒子が飛び散るわけね. 労働環境としてはそういうのがあってはいけないわけで,空気中を漂っている粉塵を集めて,どんな成分が含まれているかを分析するようなことをやったわけ. 他にも例えば川の水をサンプルにして何が入ってるのかを測るとか,土壌だろうが何だろうがフィールドワークでどんなサンプル集めてくるか,また,分析結果をどう解釈するかが学生さんのテーマになるわけで,それを分析する道具として物理的な手法を使う,というつもりのテーマなの.
田中:
具体的には何の機器を使うんですか?
小牧:
彼が最初来たときやったのは,本郷にあるタンデム加速器を使ったピクシーと称するやつで,Partice Induced X-ray Emissionっていう,加速器で粒子ぶつけて,具体的にはプロトン(陽子)をぶつけるわけだけれども. そして,ぶつけられた方の原子は電子がはぎとられて,その穴に電子が落ち込むときに特性X線がでるから,それを測るとどんなものが入っていたかわかるっていうやり方. 松尾先生のところはやっぱり放射線を使って分析をやってるわけだけれどもね. 彼のところは,例えば,原子炉で中性子を照射して放射化して,出て来る放射線を測って分析するっていうようなこともやってるわけ. だから,手法は松尾さんのところ若干似ているところがある.
田中:
地下の実験施設っていうのはここの15号館の下ですよねぇ.
小牧:
そう.下.
田中:
そうするとですねぇ,核物性の分野とかも結構いろいろな分野とかの力を集めてやったりとかしてると思うんですけれども,そういうのと比べまして基礎科学科第二とかが掲げてる学際性っていうのがありますけれども,そういうのとは何か違いがあるんでしょうか?
小牧:
そうですねぇ. 学際性っていうことばは勝手にみんないろんな意味で使ってるからみんな違うんじゃないの(笑). 具体的に考えると.
岡本:
そうですねぇ.

では,大体ここら辺で. 取り留めのないことをお聞きしましたけど,どうも,ありがとうございました.


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